映画【海炭市叙景】鑑賞しました。
こちらのページでは、映画【海炭市叙景】の感想・レビューを、核心に触れない程度のネタバレも含めつつ、書いていきます。
このページでわかること
映画【海炭市叙景】は、不遇の作家・佐藤泰志の連作短編小説が原作のヒューマン・ドラマです。
村上春樹や中上健次らと並び評されながら、41歳の若さで自ら死を選んだ佐藤泰志。
そのため「不遇の作家」と呼ばれています。
映画【海炭市叙景】は、遺された5つの短編を元に映画化。
小説のモデルとなった函館市で撮影され、 “海炭市(架空の都市)に生きる人々”を描いています。
佐藤泰志原作の函館三部作(海炭市叙景、そこのみにて光輝く 、オーバー・フェンス )の一作品。
5つの短編のあらすじを見ていきましょう。
大規模なリストラが行われた造船所。
颯太(竹原ピストル)は、組合員としてストを行うが、その甲斐虚しく解雇されてしまう。
大晦日の夜、初日の出を見るために、妹の帆波(谷村美月)と山に登る。
しかし、帰りのロープウェイに二人揃って乗るお金はなく、颯太は一人、歩いて下山することに……。
産業道路沿いの古家に住むトキ(中里あき)。
市役所職員のまこと(山中崇)は、地域開発のための立ち退き要請に訪れるが、「死ぬまでここを離れない」とトキの意思は固い。
そんなある日、飼い猫のグレが姿を消す。
比嘉隆三(小林薫)は、プラネタリウムで働いている。
水商売で働く妻・春代(南果歩)は、夫に関心がなく、中学生の一人息子もろくに口も聞かない。
ある夜、春代は帰らなかった。
隆三の怒りは頂点に達してしまい……。
代々続く家業を継いだ晴夫(加瀬亮)は、新事業に手をだすも、結果が出せずに苛立ちを募らせていた。
再婚した妻(東野智美)は、晴夫の不倫に気づき、その腹いせに晴夫の連れ子を虐待する。
何もかもうまくいかない日々を過ごす中、晴夫は足の指の上にLPガスボンベを落としてしまう。
東京で働く博(三浦誠己)は、仕事で地元に帰っても、父(西堀滋樹)に会おうとはしない。
お墓参りで鉢合わせた父と息子、二人は、何年かぶりに短い会話を交わす。
ちなみに、函館三部作の中では、一番、淡々としたストーリー。
もっと激しい内容が好みなら「そこのみにて光輝く」、希望が見えるものが良いなら「オーバー・フェンス」がおすすめです。
公開年:2010年 製作国:日本 上映時間:151分
監督:熊切和嘉 原作:佐藤泰志 脚本:宇治田隆史
出演:谷村美月・竹原ピストル・加瀬亮・三浦誠己・山中崇・南果歩・小林薫・伊藤裕子・黒沼弘巳・大森立嗣 他
監督は、「私の男」「武曲MUKOKU」「夏の終り」などを手掛けた熊切和嘉監督です。
映画【海炭市叙景】を色で表すと 「灰色」のイメージ。
華やかさはなく、どちらかと言えば重苦しい。
時折差し込む光にわずかな希望を見出す、そんな世界観だと感じました。
“海炭市”という架空の北国の田舎町が舞台。
そこで暮らす人々の様子が、淡々と描かれている。
5つとも明るい話ではない。
日常のある地点からある地点までを切り取った、まさに“叙景”。
田舎特有の閉塞感、仕事、人間関係、夫婦間など“何か”がうまくいってない人たち。
“絶望”まではいかなくても、やるせなさやあきらめ、いろんな感情と折り合いつけながら生きている。
ただ何もしないわけじゃない。
みんな今を何とかしようと、少しの幸せ、救いを求めて踏み出そうともする。
ドラマチックな展開や、はっきりした起承転結がないのも、むしろリアルに思えました。
竹原ピストルさん、本当に造船所の作業員にしか見えない。
妹役・谷村美月さんに向ける表情とか、「あ~、お兄ちゃんだなぁ」と。
二人で、初日の出見るシーン、美しかった~。
ホステス役の南果歩さん、センスない派手な服に、ケバケバしいメイク。
シュッシュッと香水をつけるのだけど、全然いい匂いしなさそう😅
いそいそ支度する妻、横にいる小林薫の苛立った感じ。
息子に話しかけても暖簾に腕押し、家族って何ってなるよ、そりゃ😢
加瀬亮、イヤな若社長役よかった!
妻に対する高圧的な態度、昔の同級生と浮気するとことか、田舎、都会に関係なく、昔も今もいるんだろうなぁ。
妻も妻で、連れ子を虐待するなんて最低、負の連鎖夫婦。
断ち切ってほしいなよ、ダメなところ。
スナックに出てくるホステスさんたち、役者さんじゃなくて本当のホステスさん?
客を客扱いしてない感じとか、美人じゃない(ごめんなさい)&よく喋るなぁ、とか、“場末感”がすごい。
ああいうやりとり実際ありそう。
ダメなことだとしても、こういう状況だとこうなる人もいるよな、と。
会ったことないけど、“全員いるいる ” 実在感があって、もがきながらも幸せを取り戻そうとする姿に、ぐっときました。
はっきりした主人公とか、伝えたい結論、みたいなものがない分、ただ暗い映画、と感じる方もいると思います。
が、私は、「感想すらいわく言い難い映画」がわりと好きなのでしっぽり楽しめました。
ノスタルジックな映像美も心に残ります。